故森嶋通夫の著作を読む〓「小国日本の歩むべき道」再論 (2/2)
2010-02-17


まず世界全体から。

私は現代の世界が抱える最大の問題は、実体経済をはるかに超えるレベルにまでふくれあがった金融の制御不能にあると考えている。現代の世界の主要な局面が経済によって規定される状況下で、大きな制御不能の要素があると言うことだ。しかし「Financial reform -- our way
forwardの解説」
[URL]
でも書いたが、金融の世界の制御は、そもそも膨張した金融に現在の世界経済が依存しているだけに相当の難事業だ。

難事業であっても、対処法のコンセンサスがあればまだしも、そんなものは今のところ存在しない。また、コンセンサスをとろうにも、欧米主要国で確立している二大政党制が機能不全を起こしていて、コンセンサスが形成されにくい状況だ。二大政党制は二大政党の政策の差がさほど大きくない、或いは両者が一定の世界観を共有している場合には二党間の妥協が成立するので機能するが、例えば現在のアメリカの民主党と共和党のように差が開いてくると、両者の妥協がとりにくくなり機能不全をひきおこすことになる。

膨張した金融を制御すると言う難事業に機能不全の民主主義はどのように対処できるのだろう?そんなことはなかなかできないから、当面はその場しのぎの対応が続くことになるだろう。

先進工業国はこの他に大なり小なり国民の老齢化とそれに伴う人口の減少に直面している。日本人は自国の老齢化の進展に目を奪われがちだが、この問題はヨーロッパもアメリカも直面していることを忘れてはならない。先進工業国ではないが、長く一人っ子政策を推進した中国の人口分布は若年層が少ない紡錘形をしており、2045年には人口の3割程度が60歳以上になるものと予想されている[Cao Gui-Ying, The Future Population of China: Prospects to 2045 by Place of Residence and by Level of Education, National University of Singapore, Asian Meta Centre[発行年不詳]]。ちなみに総務省の人口推計によれば2009年8月1日現在で日本の人口の3割程度が60歳以上だ。35年後の中国は今の日本同様老齢化に悩むことになるわけだ。

人口減少が経済成長力の減退を意味するのであれば、日本が率先して人口減少に転じることは認めるにしても、このトレンドは先進工業国から徐々に発展途上国に展開してゆくものであって、独り日本が不利になると言って大騒ぎすべき問題ではない。我々はいかに一足先に老齢化する国として老齢化にうまく対応して立ち回るのかと言うことを考えるべきだ。

制御が必要な金融と、機能不全を起こした民主主義と、人口減少を想定すれば、先進工業国に住む我々は縮小均衡の経済学とでも言うべき理論的枠組みを持って将来を俯瞰する必要がある。しかしこれまでの経済学では成長や拡大均衡が問われることはあっても、まじめに縮小均衡が問われたことはほとんどない。「リーマンブラザース倒産一周年」
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で示したように、縮小均衡の経済学の理論構築はまだ研究の緒についたばかりだ。

こう書いてくると、私は日本が現代の世界におけるその相対的な地位の若干の低下を受け入れる覚悟があるのなら、バタバタあせって生煮えな対策を打たずとも、じっくり構えて考えや政策をまとめる時間があると考える。


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