Imagining India(インドを構想する)
2009-10-30


「中国とインド(1/2)」
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や「インドの神々・インドのお酒」
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に登場してもらっているインド人の旧友夫妻に持ってきてもらった本のうち一冊はインド最大のソフトウェア会社Infosys Technologiesの元共同会長で現在Unique Identification Authority of India (UIAI)委員長のNandan Nilekaniナンダン・ニレカニが著わしたImagining Indiaと言う後書きと索引を除いただけでも510ページの大著だ(2008年刊、題名を訳せば「インドを構想する」と言う感じ)。UIAIはインドで国民総背番号制度を推進するために設けられた政府機関で、その長官(Chairmanとなっているので本来の訳は「委員長」なのだろうが、日本の行政の呼称の慣例に従った)は閣僚だ。

さすがWorld Economic Foundation Forum Foundation(ダボス会議財団)役員で、インド内外の各種の賞を受賞した人物の著作だけあって、インド内外のさまざまなその道の専門家の意見を聞いた結果をうまく自分の本にまとめていると言う感じはするが、インドの直面するさまざまな問題に突き当たって、構想を提示してはその構想を実現する際の障害をアレコレ書いているというのが読後感だ。

「インドを構想する」際、ニレカニがあげる将来に向けてのインドの利点は、若い人口と、活力のある人材の豊富さだが、それらのポテンシャルが十分発揮されるためにはこれまでの遺制のカースト、宗教、出身地域、家族、官僚統制、といった要素が障害となっているとしている。インドのIT産業が成長できたのは、たまたま政府の関心対象外であったため、許認可や原料の割当の対象とならず、官庁との深い関係を築く必要もなかったからなのだそうだ。

このような遺制が存在するのは英国の植民地政策の弊害や、インドが国としてのまとまりを持つ前に観念が先行して建国に至ったため、実際の国として機能し始めたら、国内の諸々の矛盾や統合を妨げる要素が顕在化したためだという。ニレカニの見立てでは、これらの矛盾は徐々に臨界点に近づいているが、ここ10年の経済自由化とそれに伴う経済成長の結果ようやくカースト、宗教、出身地域、家族を超えた「インド人」としての自覚が芽生えつつあり、その自覚とインド人が本来持っている行動力を解き放てばインドの成長軌道が安定するとしている。

「インドを構想する」はこのような視点からインド社会のあらゆる分野にわたる、希望のある未来を予見させる要素とその妨げとなる要素を対比している。本が膨大な理由はこの視点で初・中等教育、大学、都市政策、インフラ、環境、エネルギーと言った経済社会のあらゆる分野にわたる説明を試みているからだ。

この各分野にわたる妨げとなる要素は読めば読むほど膨大で、本当にインドはこれらを乗り越えられるのか心配になる。

特に本書で「問題だ」として何度も取り上げているのが、Bimaruと言われる地域の状況だ。インドのハートランドであるBiharビハール州(2000年に分離されたJharkandジャルカンド州を加えて人口約1億)、Madhiya Pradeshマディア・プラデシュ州(2000年に分離されたChhattisgarhチャティスガール州を加えて人口9000万弱)、Rajasthanラジャスタン州(人口6000万)、Uttar Pradeshウッタール・プラデーシュ州(人口2億弱)の4州の頭文字を取った言葉だ。カースト制が強固だ、政府機関の腐敗もひどい、それもあって教育やインフラを始めあらゆる分野で遅れている、と手厳しい。インド全人口の半分近くを占めるこの地域がインドの発展の足かせになっていると言うことになると、いくらインドを構想してもこの地域の状況次第で構想実現が危ぶまれると言うことになる。

問題はインドの発展が「他人事」ではないことだ。グローバリゼーションが進んだ今の世界で、インドは21世紀の世界経済を担うとされる国なのだ。この国の経済発展がつまづくようだと今世紀の我々の世界の未来像に大きな影響が出る。


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