ドナルド・トランプ大統領になったら
2016-05-11


昨年6月に立候補表明した時は泡沫扱いだったドナルド・トランプがアメリカ共和党の大統領候補となることが確実視される状況になった。ということはトランプ大統領が誕生する可能性が高まったわけだ。

あらゆる大統領候補が大統領になってから、議会や官僚機構とのやり取りの過程で選挙戦中の発言内容を多かれ少なかれ修正する形で政策を策定し実施することになる。トランプの場合、そもそも彼の共和党内での支持基盤が無いに等しい状況だから、いくら共和党が議会の多数派を握っているからといって、政策の策定の過程では様々な妥協をすることになるのは確実だ。ただそうではあっても彼は一国の元首だ。ビジネスマンとしての彼のこれまでのキャリアや共和党大統領選を勝ち抜いてきた過程からいって、世論を自分の側につけ強引に議会や官僚機構を自分の考えに従属させるということをするような場面も出てくるだろう。

国内向けの政策はこんなものだろうが、議会との調整をそれほど必要としない外交政策ではアメリカと向き合う国々はトランプとストレートな形で対峙することになることを覚悟しなくてはならない。

トランプが大統領として何を他の国に行ってくるのかは「これまでのアメリカのやり方よりははるかに自国の利益にかたよった要求を突きつけてくる」という一般論以外は予測不能だ。ただひとつ確実に見通せるのは彼の交渉スタイルだ。

ビジネスマンとしての彼の事業モデルは少々の手金と限界いっぱいの借金をあわせ、大規模な不動産事業を展開するというものだ。資金提供者に対しては「家賃が平方フィート$4.70(坪約17,000円)のマンションでも、Trumpブランドをつければその1.5倍以上で貸せる」といった話を、持ち前の交渉力で押し通してカネを出させる。

トランプは自分の進めたプロジェクトが当初の目論見ほどの収益が上げられず、資金が回らなくなって債権者から様々な要求をつきつけられた経験を何度もしている。その都度トランプは事業の一部を売却したり、債権者から債務の軽減を勝ち取ったりすることで切り抜けている。債務軽減の際の手口は「俺がつぶれたらお前たちの財務諸表に相当の穴があくのはわかっているな」という債権者に対する脅迫と「俺がやっていればなんとか返済を継続できるから」という強弁だ。

景気の悪化局面では不動産デベロッパーと融資団との間では絶えずこのような緊張関係があるが、通常この種の話し合いは表立っては行われない。トランプの場合は「密室での協議よりも効果がある」と見れば、必要に応じて大声で「債権者の言うとおりにすれば、この美しい町並みがスラム化する」といったことを口にしたりして、テナントや近隣住民の自己保全意識を喚起して債権者に揺さぶりをかける事だろう。

彼の事業は絶えず過大な借金を抱えながら拡大してきたから、積み上がった借金を債権者に対する脅迫のネタにすることができる。往々にして債権者側がシンジケートを組んでいて足並みが揃わないとか、自分達の体面を保つことを重視するとか言った状況を「俺は失うものは何もない一匹狼だ」という立場を取る彼が逆手に取るわけだ。

これを例えば日本との外交交渉に当てはめてみよう。結論がある程度見えているだけ気が滅入る話しなのだが…

トランプがよく口にする「同盟国は米軍駐留経費を負担しろ」という議論。こちらが最終的に「そんなに言うならいつでも出て行ってもらっても良い」といいきる覚悟があれば彼とイーブンな交渉は成り立つ。しかし現実の日本側は様々な「弱み」を抱えていて到底トランプの脅しに対峙できる状態ではないと思われる。

先ず第一が、日本の国民が「自国の防衛をどうするのか」という点で「自分の国は自分の軍隊で守る」というところまで覚悟ができていない点だ。


続きを読む

[国際事情]
[経済・社会]

コメント(全0件)
コメントをする


記事を書く
powered by ASAHIネット