Iron Dome(鉄のドーム)
2014-07-30


またまたイスラエルとガザ地区を統治しているハマスの間の争いが活発化してきている。今日現在でガザ地区の軍民合わせて死傷者が7,000名を越え(内死者は1,000名以上)、イスラエル側もガザ地区に攻め込む地上戦を開始したため主として兵士の死者が40名を越えている。ハマスのロケット攻撃の結果イスラエルの民間人も数名死亡している(内1名はタイ国籍の農業労働者)。

手短に背景を説明すると次のようなことになる。

2006年のパレスチナにおける総選挙の結果、ヨルダン川西岸地区では故アラファト議長が率いていたファタが、ガザ地区ではハマスがそれぞれ政権とっている。ハマスがイスラエルの存在を認めない政党であることを理由に、イスラエルはハマス政権の存在を認めず、一貫してガザ地区を封鎖してきた。故アラファト議長及び彼と関係したファタ勢力の腐敗に比べ、ハマスは鉄の統治でガザを抑えこんでいるが比較的クリーンであるとされているが、その一方でガザにおけるライフラインを握ることで、膨大な利益を上げているとされる。皮肉なもので、イスラエルによるガザ封鎖がなければハマスがこのような手段で利益を上げることはかなわないわけで、イスラエルはハマスの育成に手を貸していることも見逃せない。

このようなガザの住民の行き場のない絶望感を背景にガザ地区からはイスラエルに対する無差別ミサイル攻撃や地下道を穿って兵員を送り込んでのイスラエルへの攻撃が行われ、イスラエルがそれに反撃しているというのが現在の情勢だ。

興味深いのは、本来ハマスを支援していてもおかしくないアラブ諸国の対応だ。なかんずくガザ地区南部で国境を接するエジプトの動向だ。エジプトはモルシMohammad Morsi政権(在任2012-13年)の約1年間を除けばハマスをテロ集団と位置づけ、一貫してイスラエルのガザ地区封鎖に加担してきている。元々ハマスはモルシ政権の基盤である回教同胞団Muslim Brotherhoodから独立した組織であり、そのせいでモルシ政権は親ハマスだったが、それ以外の近年のエジプトの指導者は一貫して陸軍出身で、「アラブの大義」を捨てエジプトの経済立て直しのためにイスラエルとの和平を進めた陸軍出身のサダトAnwar Sadat大統領以来、回教同胞団と敵対する関係にあるからだ(Sadatは1981年に回教同胞団の暗殺者の凶弾に倒れた)。

現在の事態を収束させるためには、イスラエルによるハマス政権の認知と、ハマスによるイスラエルの存在の認知という相互認知が第一歩であり、それを招来するためにエジプトがハマスを、アメリカがイスラエルをそれぞれ抑え説得できればベストだ。しかし、上述の通りエジプトの現政権当局者はハマスと友好関係を保っておらず、ハマスの説得もまた「イスラエルを抑えられる」アメリカが「イスラエルと一体」と仲介者としての資質を疑われつつも担当しなければならない。しかし現在のネタニャフBenjamin Netanyahuイスラエル首相とアメリカのオバマBarak Obama大統領との関係は冷えており、イスラエルがアメリカの説得に積極的に耳を貸す状態ではなく、アメリカの調停には非常な困難が伴っている。

また、調停が成り立っても、これまで同様イスラエル/ハマス双方が力尽きて仲介を受けて休戦となるケースで当面の決着がつくものとみられるが、このやり方では不完全燃焼した双方の怨念ばかりが積み重なり、戦闘と休戦のサイクルが止むことはないだろう。

閑話休題。


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