消費者庁に望むこと
2009-07-22


明治以来日本の行政は概ね富国強兵、殖産興業に資するような施策をとってきた。近年多少の方向転換が認められるにしても、日本の消費者はこれまでは一貫してないがしろにされてきたといって良いと思う。

しかしこれまで軍需や設備投資や輸出に引っ張られてきた日本の経済成長も、ここに来て国民生活を犠牲にした経済成長の弊がようやく語られるようになり、国内消費で経済成長を牽引することの重要性が多少は認識されるようになってきているのではなかろうか。

不評だった短命の福田内閣もひとつだけ良いことをした。このような国民経済の流れを助けるため、消費者庁のの創設を2008年1月18日の施政方針演説で明らかにしたことである。その消費者庁が今秋ようやく設立される。

消費者庁がモノではなく、ソフトに関連する分野で取組むべきいくつかのテーマを考えてみたい。

1. 「世界の常識」といわれることでも競争制限的なことには敢然と立ち向かってほしい

古いテレビ番組や映画をビデオで見ていた時代。テレビの放送規格が同じだったのでアメリカ製のビデオは日本で見れた。日本とアメリカとカナダ以外の国はほとんどPALという放送規格を使っている。ヨーロッパのビデオを見ようとすると、PAL規格の信号を日本やアメリカで使っているNTSC規格の信号に変えるコンバーターをつける必要がある。テレビの放送信号がことなるのは、カラーテレビの草創期にヨーロッパが先行するアメリカと対抗する送信方式を採用したからだ。

DVD時代の今、PAL/NTSCに加え更にもうひとつフィルターがついた。

DVDの世界では世界は4つのRegion(地域)に分けられている(ちなみに現在徐々に販売が進んでいるブルーレイの場合は世界は3つのRegionに分けられている)。アメリカはRegion 1で日本とヨーロッパはRegion 2だ。映画のDVDにはおおむねこのRegion Code(地域信号)と言う固有の信号が仕込まれていて、DVDプレーヤーはまずその信号を読み込んでから再生を開始する。アメリカのDVDを日本で販売されているプレーヤーで再生しようとするとDVDに仕込まれているRegion codeのせいでRegionが違うことを機械が感知して再生できない。どうしても再生したければアメリカで売っているDVDプレーヤーを買ってくるしかない。

つまりDVDの時代になってビデオの時代に比べソフトを世界中でシェアする能力が更に制限されたわけだ。今はユビキタスの時代(ウィキペディアの定義によれば「『いつでも、どこでも、だれでも』が恩恵を受けることができるインタフェース、環境、技術のこと」)といわれるが、こと映像や音楽ソフトに関しては完全に逆行している。

この背景にはソフトの出し方を地域別に制限することによって製品寿命を延長し収益をあげる機会を増加させようとする世界の映像や音楽ソフトの事業者の意図が働いている。この事業者の意図に再生機器のメーカーが応じているわけだ。別に国の法律でRegionが定められているわけではないので、ソフト側と機器のメーカー側が私人間の契約を結んでRegionを消費者に押しつけているだけだ。こういうことは競争を不当に制限していることにならないか?

消費者庁にはこのDVDのRegion問題は消費者に不利益をもたらす競争制限だとして、日本国内で販売されるDVDプレーヤーについてはリージョンコードをつけることを非合法化するくらいの見識を期待したい(ちなみにWikipediaによればオーストラリアやニュージーランドの独禁法当局はこのような見解を取っている由である)。

2. 内外価格差を積極的に駆除してほしい

2.1 日本の音楽ソフトの逆輸入を認める

映像や音楽ソフトの作成にはコストがかかる。無償コピーはそのコストの回収や利益を妨げる行為なので規制する必要がある。この論理は納得である。しかし、無償コピーがご法度と言うことはむやみに高いものを自国の消費者に売りつけることを合理化はしない。


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